「でもレオは女の子に触れないんじゃ……」

「それ、子供の頃だけよ。伯母様に呪われたショックでしばらくは人に触れられなかったんでしょ? 今、リンネだって平気で触っているじゃない」

 ……あれ?

 なにかがちぐはぐしているような気がする。だけど、ローレンは原作を知っているんだから正しいはずだ。うまく追及することができずに私は話題を変えた。

「それで、ローレンはどうやってレオを助けるの?」

「巫女姫の力よ。ちょっと説明が長くなるんだけど、でも一から説明するね」

 こうして、私はいわゆる原作小説のことを教えてもらうこととなった。

 タイトルは『情念のサクリファイス』。前世の記憶ではとてもゴテゴテした装丁だったような記憶がある。
 サクリファイスというのは、生贄という意味らしい。意外と恐ろしい意味合いだったので笑えなくなってしまった。

 この話の根底は、ハルティーリア国と、隣国リトルウィックとの確執にあるらしい。

 建国の頃、ハルティーリアには、巫女姫という存在がいたそうだ。魔術を操り、自然と共生する巫女姫の祈りのおかげで、ハルティーリアは天候に恵まれ、実り多い土地として栄えた。ハルティーリアの歴代国王は、巫女姫と彼女の後継者を育てる館を整備し、厚遇していた。やがてはそれが神殿と呼ばれるようになり、いつしか、神殿は王家と二分する権力をもつようになったのだそう。

 しかし、ある日外国から漂流者が流れ着いた。その外国人は、魔術を操る巫女姫を、異質なものだと言った。そして、この国には火山があるのだから地熱を利用すれば、もっといろいろな恩恵が受けれると、そそのかしたのだ。

 漂流者の言うことは間違いだけでもなく、国は機械産業に舵を切り、成功を収めた。
 大きな船を作ることにも成功し、そこから貿易も広がった。海外の文化が入ることで国は近代化したのだ。