私は翔斗のことを完全に忘れたわけではなかった。
三琴先輩のやさしさに覆われて見えなくなっていただけで、長い期間で作り上げてきた私にとっての普通は、そう簡単には消えてくれなかった。
けれど、この気持ちを一人で抱え込んでいたとしたら、私のこころは今頃死んでいた。
エナちゃんと浴衣を買いに行くこともできなかったかもしれないし、真渡くんのどうでもいい話に耳を傾ける気力もなかったかもしれない。
春先輩が本当はまだ三琴先輩のことを好きかも、という事実を知ってこんなふうに傷ついて遠慮することだって、きっとあり得なかったのだ。



