「主様だぁ!!」

 怯えるような声が響く。ドンと響く音が響いて、桟橋が割れた。
 俺は慌てて腰の短剣をかざし、魔力で炎を纏わせる。追い払うように短剣を振り回す。
 ベルンが水の塊に殴られる。冷たい水なんて言う生優しい感触じゃない。圧力を持った大きな塊。
 引きずり込まれないように、ベルンを抱え込む。と、俺も引きずられて湖に落ちた。

 凍えるような冷たい水。ベルンは気を失っていた。水を含んで重くなる服。意識がない死体のようなベルン。だらりと下がった腕。こんなに重いものは今まで持ったことがない。沈む、飲み込まれる。

 怖い。死んでしまったら、ベルンが死んでしまったら……!!

 俺はイメージをした。こんなのは初めてだ。いつだって俺の炎の魔法は突き刺すようなイメージで使っていた。でも駄目だ、今はそれじゃあダメだ。

 この水を温めないと!

 自分の周りを包むような熱を意識する。俺の炎は水には弱い。でも、少しぐらいなら温めることくらいできるはず。やったことはないけれど、理屈から言えばそうだ。

 肌を刺す冷たい水が、緩んでくるのがわかる。
 湖の主は、水の塊のような手を俺たちに伸ばした。