【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)


 自分で初めて作り上げたブーメランだ。すごく悔しくて、惜しくて、絶対取り戻したい、そう思った。
 我が家の使用人がいれば、迷わず取ってこいと命じただろう。
 でも、ここは王都とは違うのだ。
 周りの戸惑う空気がわかる。みんな、俺が取り戻したいと思っていることを知っている、そう感じた。

 ウォルフが戸惑うように呟いた。

「もう水が冷たいから、入るなって言われてるんだよな……」
「あそこは深いから、泳がなきゃ無理よ」

 応えるようにもう一人の女の子が言う。
 夏だったら取りに行ってくれたのだろう、そう思える口ぶりで、俺は固く唇を噛んだ。
 仕方がない、諦めるしかない、わかってもらえただけで充分だ。
 本当は諦めたくない、でも、ここで貴族の俺が騒いではいけないと思った。そうしたら、きっとこの楽しい時間は終わってしまうのだ。