「あー……疲れた……」
 
 声に出したら、フェルゼンが笑った。

「それほど踊ってもいないくせに。いつだって壁の……花? ん? じゃないよな?」

 壁の花とはご令嬢に向けて言う言葉だ。

「何でもいいけど。誘われたくないし、私は出てもしょうがないからね。目立たないようにするのも結構疲れるんだよ」

 なんてったって、周りの目立つ連中が声をかけてくるから、折角壁の模様にでもなろうとしていても、嫌でも目立ってしまうのだ。

「へー。いいなーってヤツいなかった?」
「いても困るでしょ。付き合えるわけないんだし。責任も取れないのに、変な噂でも立って、相手のご令嬢に迷惑かけられないし」
「つーか、想定する相手はご令嬢、なわけだ?」
「? 何言ってんの。燕尾服だよ? これで紳士を口説くわけないでしょ」