【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)


 騒めく校内を抜けて、寮の部屋へ戻る。この部屋を次の世代に引き渡すため、整理しておかなければいけない。
 人気者のフェルゼンやシュテルは、まだたくさんの人に囲まれている。

 ドアを開ければ懐かしい匂いがする。フェルゼンの香り。マロウの茶葉。シュテルのオイル。離れてから嗅いでみると、部屋に沁みつくほど匂っていたのかと恥ずかしくなる。
 
 二段ベットを整える。
 並んだ机の引き出しの教科書を鞄へ詰め込んだ。
 カギのついた引き出しを開け、宝物を確認する。何一つ欠けていなくて安心した。
 占いをしたシュテルの鏡。湖の水の入った瓶の星。フェルゼンのくれたリボンと、笑ってしまうようなザントの手紙。マレーネ姫からは押し花のしおり。
 大事なそれらを鞄にしまえば、コンコンとドアがノックされる。
 
「ベルン先輩」

 クラウトの声だ。

「開けて入って」

 答えればクラウトがおずおずと顔を出した。