そう言って、リリトゥに走り寄り、その勢いのままシュテルのサーベルを投げつけた。
 胸に刺さったサーベルが、リリトゥの中で溶けていく。水銀の毒が効いていく。そのままリリトゥは地面に落ちた。それでも小物モンスターはまだ立ち向かってくる。

「立てる者はあるか!!」

 シュテルの凛々しい声が響き渡った。

「……おお……!」

 ムクムクと周りの士官学生たちが起き上がる。リリトゥが倒れたことで、みんなの呪いが解けたのだ。
 それを見て、北の国の姫君は崩れ落ちた。

 フェルゼンと目が合った。真っ青な顔をしている。心配している、分かってる。だから。
 私は唇に人差し指を当てて、シーっと合図を送る。小さいころから繰り返してきた、秘密の合図。

 私は、もうここにはいられない。
 すべて明らかになってしまったから。

 フェルゼンが悲痛な顔をして頷いたから、手を振って戦えと指示をする。フェルゼンは何かを振り切るように赤い髪を振って、炎の壁を私達と観客席の間に繰り出した。
 きっと逃れるための目くらましだ。

 こんな時まで、フェルゼンは優しい。
 

 ここはもう大丈夫だ。後はみんなが何とかしてくれる。

 私は女騎兵たちと逃げるようにしてコロッセオを後にした。