ツキリ、北の国の姫の話が出て、胸が痛んだ。北の国の姫とシュテルの間には、以前婚約の話が出たことがあったのだ。
 シュテルが断って話はたち消えたが、そこまでが大変だったようだ。その姫君が来ることに、なぜだが不安になってしまう。
 美しいと有名な北国の姫。どんな人なのか見てみたい、でも見たくない。騎士姿のシュテルを見て欲しくない、見られたくない。


「制服姿でタンゴを踊れば壮観だと思う」
「ええぇぇぇ……男同士のタンゴなんか見て面白いか?」

 不満の声が上がる。

「ベルン!」

 突然呼びつけられて驚いた。
 手を差し出されたから、思わず手を取る。
 グッと腰を引かれ、腕を伸ばされた。タンゴのポーズをとらされる。背中がのけ反って、ハラリ髪が落ちる。