士官学校では触れられない。卒業するまでは愛すら囁けない。
 でも、今夜は宵闇の騎士ではないのなら。
 知らないふりをしてしまえば、許されるのではないかと思った。

「運命の人……」

 呼びかければ顔をそらされる。
 切なくて頬に添わせていた手のひらを、ゆっくりと滑らせる。
 制服に隠れている細い首筋も今夜は伸びやかだ。俺だけが知っているはずの鎖骨は鍾乳石のように瑞々しく潤んで冷たい。

 触れたかった。ずっと、そう思っていた。

 驚いて離れようとするから、逃がさないようにリボンをつまむ。
 逃げられない理由を作るから、それを言い訳に留まって欲しい。