「どこ行くの?」
「秘密」
にっこりと笑うシュテルに、フェルゼンと二人顔を見合わせる。
しかし、こういうシュテルに尋ねても無駄だということは経験上知っていたから、私たちは黙って後をついていった。
少し小高い丘を歩く。熱帯夜のヌルヌルとした風が纏わりつく。草いきれが立ち込める。天の川が近い。
草原に腰をおろしてシュテルの指さす方角を見れば、鏡の離宮が見えた。
黒い湖。白い城。蠢く人たち。
「今日は離宮に僕のご先祖様がいらしてるそうだよ。だから、生者は祭りが終わるまでは入れないんだ」
湖畔が少しずつ光り始めた。ポツポツとした小さくて柔らかな灯り。それが、一斉にユルユルと空に上がっていく。
ランタンだ。
息を飲む美しさ。ただ空を見上げる。
たくさんのランタンが暗い夜空を埋めつくす。



