「そんなことないよ」
「あの視察で侍女がベルンならって推薦したらしい」
「え? それはまずい……」
「まずいって、ベルン。人の妹、誑かしてそれはないでしょ! すっごい仲いいって聞いた。マレーネもベルンの話ばかりするし、結婚式上げたんだって嬉しそうに言ってた!」

 シュテルが怒り心頭で、ガンガン嚙みついてくる。

 周りは好奇心丸出しで、耳を大きくしてこちらを伺っていた。
 私は大きくため息を吐き出した。

「結婚式なんか上げてないよ。小さな子がブーケをくれただけだって。それに国王様が何と言おうと、父が許さないと思うし」
「どういうこと? 王家との婚姻が不服なの?」
「不服ではなくて。アイスベルクは王家と婚姻を結ばないという家訓があるからだよ」
「……え?」

 シュテルが驚いて私を見つめた。特にはっきりとした公的な取り決めがあるわけではないけれど、アイスベルク家の中では決まっていることだ。昔からそれが良いと納得している。
 ハッキリと説明して、みんなの誤解を解いてしまいたい。