【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)


 カフェを出て、桑畑を見ながら家に戻る。夏には指先を真っ青にして、桑の実を食べた場所だ。いつでも爪の間に紫がこびりついていたあの頃。

「なつかしいよな。ベルン様はスカートまくり上げてさ」

 その一言で分かる。きっと同じことを思い出していた。

「桑の実の汁は落ちないんだよ」
「ああ」

 長く外で遊べないリーリエお姉様のために、みんながいっぱい桑の実を集めてくれた。
 私は自分のスカートを袋代わりにして、抱えて持ち帰ったのだ。つぶれた桑の実はシミになり、メイド長に怒られた。その後メイドと一緒に染み抜きをしたから、シミが落ちないのは嫌なほど知っている。
 メイド長はそんなふうに怒っても、翌日にはジャムにしておいてくれた。そのジャムでお姉さまが作ってくれたクッキーをみんなに配ったのが思い出される。