「なぁ、そんなに王都は良いか?」
ウォルフの黒い瞳が、少しの非難を交えて私を見つめた。
「王都がいいわけじゃないけど」
住むならアイスベルクだ。比較しようもないくらいに、こちらがいい。だけど。
だけど?
「じゃ、なんだよ」
なんでだろう。
「あっちは苦しくないか? あそこにいる限り、今日みたいな恰好で今日みたいに店に入って、好きなものを買ったりすることはできないだろ?」
そうだ。好きな服を見に行くことすら許されない。
少しずつだけれど、膨らんでくる乳房をさらしで押しつぶして、本来の自分を押し殺して。
それでも、あそこにいる意味はあるのだろうか。
シュテルの金の髪が、瞳の奥にチラついた。
そのことに驚いて息を飲む。
「……それでも、もう少しだけ王都にいたいんだ」
許される間は。
「ふーん」
ウォルフは納得していないように答えて、コーヒーを口に運んだ。



