【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)


「なぁ、そんなに王都は良いか?」

 ウォルフの黒い瞳が、少しの非難を交えて私を見つめた。

「王都がいいわけじゃないけど」

 住むならアイスベルクだ。比較しようもないくらいに、こちらがいい。だけど。

 だけど?

「じゃ、なんだよ」

 なんでだろう。

「あっちは苦しくないか? あそこにいる限り、今日みたいな恰好で今日みたいに店に入って、好きなものを買ったりすることはできないだろ?」

 そうだ。好きな服を見に行くことすら許されない。
 少しずつだけれど、膨らんでくる乳房をさらしで押しつぶして、本来の自分を押し殺して。
 それでも、あそこにいる意味はあるのだろうか。

 シュテルの金の髪が、瞳の奥にチラついた。

 そのことに驚いて息を飲む。

「……それでも、もう少しだけ王都にいたいんだ」

 許される間は。

「ふーん」

 ウォルフは納得していないように答えて、コーヒーを口に運んだ。