王子の僕にお愛想で『天使みたいな美しさ』なんて言う大人は多かったけれど、今みたいに突然、しかも同じ年くらいの子供に真顔でそんなことを言われたことがなかったので面食らった。
「てんしさま、なの?」
男の子は小首をかしげて、もう一度そう尋ねた。
僕は慌てて首を横に振った。
「ちがうの」
コクリと頷く。
「……どうしたの? 馬が見たいの?」
もう一度頷けば、その子は満面の笑みで微笑んで僕を手招きした。
「こわくない?」
オズオズと尋ねてみる。
「全然怖くないよ。この子はとっても優しいから」
馬のことを『この子』って言うんだな、なんて思った。
「大丈夫、こっちににおいでよ」
もう一度呼びかけられて、ムズムズとする。こんなふうに、子供らしく話しかけられることは少ないからだ。ため口で話すのは、幼馴染のフェルゼンだけだ。後はみんな丁寧な言葉で話す。
だから、とても新鮮だった。僕は意を決して彼の隣に並んだ。



