【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)


 僕は早速厩舎へと向かった。もちろん、大人には秘密だった。厩舎に行きたいと言えば、何やかんやと理由をつけて、きっと一週間ぐらい先伸ばされてしまう。

 王宮とはそういうところだった。

 僕の望みを叶えてくれないわけじゃない。だけど、安全だとか、手続きだとか、儀式だとかで時間がかかるのが常なのだ。だから、僕は諦めることが多くなっていた。

 人目を避けて、厩舎へとたどり着いた。

 しかしそこには先客がいた。

 青い髪の男の子。さっきと同じ馬丁の衣装を身につけたままだ。
 僕はそっと壁の影から様子を伺う。
 男の子は、それはそれは大切そうに馬の首を撫でていた。
 馬は大人しく、されるがままにされていた。
 早く馬を見てみたいのに、その子がいるから側に寄れない。
 チラチラと覗いては隠れ、覗いては隠れとしていると、ふと青い視線にぶつかった。あの男の子と目が合ってしまったのだ。

 まずい!

「……てんしさま?」

 男の子はそう言った。僕は慌てて自分の後ろを振り返る。誰かいるのかと思ったのだ。でも周りには人一人おらず、僕に向けられた言葉だと分かった。