【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)


「背中に傷、ゴメン」
「謝るな!」

 シュテルがギュッとつかんだ腕に力を籠める。
 プライドを傷つけた、きっとそうだ。またゴメンと、言いかけて口を噤む。

「ちがう、そうじゃないんだ。そう言うことじゃなくて……」
「うん?」
「……治らなければいいって、思ってる」
「え?」

 ゆっくりとシュテルの顔が振り向く。肩に乗せた私の顔に近づく。頬と頬が触れて、鼻先と鼻先がぶつかった。
 驚いて離れようとしても、掴まれた腕がビクともしない。
 慌てて引き離そうと背中を押す。

「痛いよベルン」

 笑いながらだけど、そう言われたら強くは押せない。

「だったら離してよ」
「ヤダ」

 ぶつかった鼻先が、今度は意図的にすりあわされる。
 バクバクと心臓がなって、息だって出来なくて、どうしていいかもわからずに、ただただ戸惑うばかりだ。

 どうしてこんなこと。