なぜか、ワンコがいる。正確に言えば、クラウトがワンコに見える。昨日の一件から、妙に懐いてしまったクラウトが、足元で子犬のワルツを踊っている幻想がみえる。
 昨日の寝不足のせいだ。

 シュテルから教えられた宿営地の話で、私は頭がいっぱいになって上手く眠れなかった。
 考えもしていなかった。自分が男から恋愛対象として見られる可能性があるということ。他人から見れば、シュテルやフェルゼンと付き合っているように見えること。
 何もかもがキャパオーバーで、処理できずに朝になってしまったのだ。ねむい。

「ベルン先輩、ベルン先輩!」

 子犬がきゃんきゃん吠えている。じゃなかった、クラウトが一晩明けたらベルン先輩呼びになってただけだった。明日にはパイセンとか言い出しそうだ。

「なに?」
「昨日は殿下と何をお話だったんですか?」

 問われて、ボッと顔が熱くなる。
 そんな意識するようなことはない。無かったはずだけど、耳に残ったシュテルの感触。真剣なまなざしと、言葉が今っさっきの出来事のように巻き戻る。

 不思議そうな顔をするクラウトに曖昧に笑った。