「どういうことかな?」
「わかった、わかったから、後で話すから!」
「後で? なんで今話せない」

 しつこい。

 私は諦めてため息をついた。

「だったら耳貸して」
「は?」

 フェルゼンが驚いて瞬きする。

 背の高いフェルゼンの頭を押さえつけて、つま先立ちして彼の耳元に口を寄せる。そしてコソコソと耳打ちする。

「内緒だよ」
「え」
「クラウトが熊に襲われかけた。上に知られると面倒だから、黙ってて」
「面倒って、お前」
「黙ってて、お願い。書類とか書きたくない」
「……わかった」

 フェルゼンが納得したところで、抑え込んでいた頭を離した。頭をきつく押さえ過ぎたのか、フェルゼンは顔を真っ赤にしている。
 なぜだか視線を感じて振り向くと、シュテルが不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。
 周りが酷く静かだ。
 見回してみると、クラウトは顔を赤くして目をそらし、他の人たちもなんだが微妙な顔つきでこちらを見ていた。