ユキノさんがもう我慢ならないといったようにケーキを押しやる。
「じゃあいる?」
「お前の食いかけなんかいらねーよ」
ちょっと待って、と思う。
え、いま間接キスした?
向こうは気にしてないふうだったけど、わたしは内心ドキドキしていた。
わたしが気にしすぎてるだけ?
これは普通のことなの?
びっくりと、なんかよくわからない感情のまざったドキドキ。
しばらくフォークを前にどうするか迷ったけど、結局なにもなかったようにケーキを食べる。
「ユキノ。今晩だけ榛名を匿ってくれねーか」
「……カクマッテ?」
「人に追われてる」
「やだ、廉士。あたしはそういうのしないって言ってるでしょう?あくまでも仕事上の関係、あたしたちはビジネスパートナーなんだから」
ユキノさんの言葉にすこしほっとした。
たしかに、ここにかくまってもらえたら外にいるよりも安全かもしれない。
記憶が戻ってくるのをただ待てばいいのだから。
廉士さんもそのことを考えた上で、ユキノさんに無理を承知でたのんでくれたんだ。
それでもわたしは廉士さんと一緒にいたかった。



