「お前に教えることはなにもない」
「ですよね……」
さすがに踏み込んだ質問だったのかもしれない。
言ったあとで後悔する。
好きな食べ物とか、そういう当たり障りのないことを聞けばよかった。
わたしと彼の間にあるのは、ちょっとやそっとの溝なんかじゃない。
境界線だ。
他人と他人。
交わることも入る込むこともできない境界線が、わたしたちの間には引かれていた。
「ああ、でも」
「……?」
「ひとつだけ。教えてやるよ」
なんですか、と答えるよりはやく。
くるりと振り返った廉士さんによって、
わたしは思いっきり、地面に投げ出された。



