それがあるのは蹴り飛ばされたままになっているゴミ箱の近く。
そこまでたどり着いて、わたしは視線を落とした。
りんごの芯、開けられた袋とじ、
空のペットボトル、紙くずに
──────……、本。
赤い背表紙のそれを手にとる。
ほこりをはらって、表紙をみた。
……うん。
これで、あってる。
「廉士さん」
もう、わたしの言いたいことを察したんだろう。
やっぱり廉士さんは勘が鋭くて、ただわたしの顔を見つめるばかりだった。
不格好に流れるなみだから目を離してはくれなかった。
うまく笑えない。
そもそも笑う場面ではないはずだった。
それなのに、笑え、と心のなかにいるもうひとりの自分がつよく指示を出して。
きっとぎこちない、情けない笑顔になっていただろう。
「わたしはここから来ました」
榛名灯里の正体は
──────本の中の住人、だったんです。



