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「つかまえた」


がしりと腕をつかまれたのは、もうどれほど走っていたかもわからなくなっていたとき。

平坦な声がしたと思えばわたしの視界がぐんと揺れる。


走っていた分、後ろに引っ張られて簡単に尻もちをついてしまう。



乱れる呼吸はひとりぶん。

息を整えるよりも、顔をあげるよりも先にぐいっとあごを持ち上げられた。




「もうどこにも逃げ場はないが?」

「……シュトリ」



あいかわらずシワ一つない、無を貼りつけた顔たちがそこにはあった。

はじめて会ったときよりも倍以上の人数になっている。


たぶん、わたしたちを追いかけているときに応援でも呼んだんだろう。





「退け」


その集団のなかからそんな声がかかれば、さっと人の道ができる。


ゆっくりとわたしの前に歩いてきたのは一人の男。

はじめて見る顔だった。


きっとこの人が総大将なんだ。