てっきり記憶は1時間おきに戻ってくるものだと思っていた。


それなのに、いま、頭の中に浮かんでくるのはまぎれもなく自分の記憶。



うしろを振りかえるけど、追っ手はどうやら撒いたみたい。



頭を押さえてみても頭痛はしなかった。


ふつふつとよみがえってくる。



中学校や高校に通ってなかったこと。


小学校も途中から行ってなかったこと。


初恋すらまだだったこと。

……だから、わたしの初恋は廉士さんということになる。


あと、好きだったこと。よく食べていたもの。苦手だったこと。


そんなこまごましたものが、湧き水のようにどんどんあふれ出てくる。




「……お兄ちゃん」


ぷくぷくと浮かんできた、兄たちの名前。

榛名宇緒、奈緒。双子の兄だった。


それに、お父さんにお母さん。





『ごめんね灯里。ごめんね、ごめんね……お兄ちゃんたちと仲良くね』



穏やかで落ち着いた、女性らしい声はお母さんのもの。


記憶のなかの両親はわたしを抱きしめて泣いていた。



なんで泣いてるのかはわからなかったけど、ふたりの瞳は空洞だった。