判断力と思考力が著しく低下しているから考えることをやめ、廉士さんの首に腕をまわした。
「ありがとう」
「……別に」
なんだか身体がむず痒くなるような静寂。
だめだ、何か話さないと。
でもなにも思いつかない。
そんなわたしを知ってか知らずか、廉士さんは小さく息を吐いた。
「まだ撒き切れたわけじゃない。いま見つかれば面倒だ」
そう言って、上を見あげる。
わたしも追って顔をあげれば、そこには他のビルや建物とは違う、朽ちた建物があった。
……廃墟。
追いかけっこの次は、隠れんぼ?
「榛名」
「はい」
「お前、そういった類い苦手だろ」
偏見だ。
そういった類いとはおそらく幽霊のこと。
この廃墟を目の当たりにすれば、そんなことは一目瞭然だった。