わたしも意を決して、正面を見すえた瞬間だった。
「──────ここにいたか、お嬢ちゃんよォ」
後ろから聞こえてきた声。
振り返っても見知らぬ顔ばかりだったけど、どうやらわたしに用があるよう。
そちらもまた、それなりの集団で。
前と後ろをそれぞれの敵?追っ手に、はさまれてしまった。
「榛名」
「は、はい」
「お前、面倒すぎ」
「えっ、ごめんなさ────ぅわあっ!?」
ぐんと腕を引っ張られて、前につんのめった身体。
「おいっあっちに行ったぞ!」
「追え、けっして逃すんじゃない!」
後ろから追いかけてくる声は、もはや誰が発したものか判断もつかない。
わたしの手をとった廉士さんは横道をひた走る。
「ちょ、はやいはやいっ……!廉士さんこけそう!」
「黙ってろ。舌噛むぞ」
はやめの警告のおかげで舌を噛むことはなかったけど。
なんでわたし、廉士さんの声だけは聞き分けられたんだろう。
いまも耳に入ってくる誰かの声はもう、ノイズのようにぐしゃぐしゃだった。



