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「あれ」



ふいを突かれたような声とともに、それまでずっと端末に目を落としていた榛名宇緒が顔をあげた。




「どうした兄貴」

「ここじゃない」



ココジャナイ?


それは疑問形のようにも聞こえたが、榛名宇緒は断言するようにもう一度言った。


「ここじゃない」




ふたりは灯里のネックレスに内蔵されたGPSを頼りに夜の道を進んでいた。


しかし、さっきまで端末に表示されていたマークがここじゃない場所に移動している。



複雑な道を行ったり来たりしているうちに、どこかで行き違いになったのだろうか。


と、榛名宇緒は意味もなく端末の画面をぱしぱし叩いた。




「ケチって古い型にしなきゃよかった」

「今さら後悔しても遅いだろ。で、灯里は?」

「ここだね。ここ」



榛名奈緒が、その示された場所を覗く。

ここからそう離れていないところを進んでいるようだ。


ゆっくりゆっくりと動くそのマークは、灯里のマイペースさを表しているようでもあった。