「ちょっと来て」

桜人はいきなり私の手を握ると、入院棟の方に向かって歩きはじめた。

手を繋いだのは久しぶりで、あっという間に胸が高鳴った。

歩きながら桜人の掌がそっと動いて、指に、指を絡ませられる。

今までにない触れ方に、距離が近くなったことを感じて、頬が熱くなった。

桜人が私を連れてきたのは、樫の大木が根を蔓延らせている、あの中庭だった。

水色の空には白い霧のような雲が浮かんでいて、葉をなくした枯れ枝が、風に煽られ緩やかに揺れている。

「いい天気だね」

空を見上げながらそう言うと「ここはいつもいい天気だ」と桜人が非科学的なことを言う。

「俺の中では……」

それから桜人は、変なことを言ったのに気づいたのか、やや焦ったように付け足した。

「そうなの?」

いつになく動揺している桜人が面白くてクスクス笑っていると、突然両肩に手を乗せられた。

急なことにビクッと肩が竦む。