十月も、もう終わりに近づいていた。

校庭の木々は色づき、太陽の光は和らぎ、空の水色もくすんでいく。

日に日に色を塗り替えていく世界が、冬の訪れを知らせていた。

おはよ、の声が飛び交う朝の昇降口。

寝ぼけ眼で、私はローファーから上靴に履き替えていた。

昨夜、光が反抗してきて、夜遅くまで喧嘩をしていたからだ。
このところ、光は不安定だった。

夏ごろから気持ちが落ち着いていて、体調もよかったのに、なんだか嫌な予感がする。

考えながらローファーを下駄箱にしまっていると、ぼうっとしていたせいで、手が誰かの腕に当たった。

「あ、ごめんなさい」

慌てて謝り、振り返る。

息が止まるかと思った。

それは、久しぶりに間近で見る桜人だった。

前髪が、少し伸びた気がする。だけど相変わらずモカ色の髪はサラサラで、薄茶色の瞳が、驚いたようにこちらに向けられていた。

喉から出かけた言葉を、瞬時に呑み込む。

私を見るなり、彼の瞳に、激しい拒絶の色が浮かんだことに気づいたからだ。

「……いや、」

それだけ答えると、桜人は私を視界から外すように瞳を伏せた。

スクールバッグを持つ彼の大きな掌が、遠ざかっていくのを放心状態で見送る。