君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな
“君に会うためなら死んでも構わないと思っていた。だけど今は君に会うためにいつまでも生きていたいって思う”
ずっと、この和歌の意味が理解できなかった。
僕はずっと、生きたいと思っていなかったから。
誰かに会うために生きたいという気持ちなど、子供ながらに、きれいごととしか思えなかった。
見るからに仲が冷え切っていく両親、泣きわめく母親、突然の離婚。
ずっと思ってた。この世から、僕なんかいなくなった方がいいって。
この身体は、欠陥だらけだ。
早く土に返って、新しい生を育んだ方が、よほど世のため人のためだろう。
そんなとき、あの子に出会った。
あの子は太陽の光みたいに輝いていた。
最初は苦手で、拒絶しかけたけど。
だけど彼女は、不思議な力で、すさんだ僕の心を溶かしてくれた。
あのとき、一文字一文字が心に染み入るように、あの和歌の意味がスッと理解できたんだ。
遠い、夏の日の思い出だ。