「はあ……」

特に何もすることなく、与えられた部屋の窓から外を眺めていた。

「本当、ここはどこなのよ……ねえ、こむぎ。答えてよ」

誰に向かって言うでもなくそう問いかけても、答えが返ってくることはない。王太子とか騎士団長とか、もうわけがわからない。

確かに、嫌がらせをする同僚や、しつこく誘ってくる医師も、浮気者の彼氏も、もう何もかも嫌になっていた。本気で病院を辞めて、どこかまだ行ったことのない所でやり直したいと、漠然と思っていた。それがまさか、こんなことになるなんて……

「いくら行ったことのない土地を求めていたとはいえ、異世界って……」

まだこの国のほんの少しの部分しか見ていない。だけど、ここはどう考えたって私の常識からかけ離れた世界だ。どうしたらいいのか皆目見当がつかない以上、ここのやり方に従うしかないのだろう。

「そうなんですか?」

突然降ってきた声に驚いて振り向けば、ライラが戸口に立っていた。

「ラ、ライラ」

「ノックをしても返事がなかったので、心配になって入らせていただきました。お食事をお持ちしました」