王太子の執務室を後にして、再び女性を休ませている部屋へ向かった。念のため、部屋の外には見張りの騎士を付けてある。
女性とわかった以上、傍に侍女を付けておこうかとも思ったが、どういう人物なのかわからないだけに、無防備な侍女を近付けるのは危険だ。一応、武器となるものは何一つ持っていなかったが、素手で命を奪う訓練を受けている可能性もある。

「今晩は、俺が中で付いている。お前達は念のため、このまま扉の外を任せる」

「はい、団長」

部屋の前に立つ2人の若い騎士に声をかけ、中に入る。女はまだ眠っているようだ。




「ん……こむぎ……私もう、疲れちゃった」

声が聞こえて顔を覗き込むも、女は目を閉じたまま、眉間にシワを寄せていた。

「寝言か」

それにしても、随分苦しそうな表情をしている。どこか調子でも悪いんだろうか?そっと額に触れてみたが、熱はなさそうだ。脈も問題ない。

「女、お前はどこから来た何者だ?」

一晩中様子を窺いながら、この得体の知れない女の背景を想像するも、何も浮かんでこない。本人から聞き出すしかない。

「素直に応じてくれればいいが……」

ルイスのそばにいると、美しい外見の裏に潜む女性の卑しさ、狡さというものを、嫌というほど見せつけられる。ルイスほどではないにしろ、初対面の女性とあらば、多少なりともかまえてしまう自分がいる。