さっきより、強まった雨足。
俺は、彼女の手に自分の傘を握らせると、にっこりと笑い掛けた。


「女の子に風邪引かせる訳にはいかないから」


そう言って、素早く自分のスーツのジャケットを被る。
ポタポタとジャケットに、すぐ幾つものシミが付いていくのも気にせず、何か言いたげな彼女に半分背を向けて、


「気を付けて…」


と、その場を言い立ち去った。


まさか、その瞬間に…。
自分が彼女に惹かれ始めてるとは思わず、ただただ彼女が風邪を引かなければいい、と願った。


ほんの1時間にも満たない、時。


彼女との出会いはセンセーショナルで、不思議とノスタルジックな感覚を思わせた。