そんな出会いの後。

お互いの自己紹介をする。



「俺は、一応IT系の小さな会社の役員してる、矢代大智」

「…そうなんだ。私は……麻耶…花生麻耶」

「どんな仕事してるの?」

「そこのお花屋さんでフラワーアレンジメントとかしてる…」


ふふふ、と笑う彼女がとても儚げで、心の中が何故かざわめいた。


「花屋…?そんなのあったかな…?」

「矢代さんのこと、私知ってる。…何時も腕時計を気にしながら、足早にお店の前通るから」

「えー?そうだったの?それはなんだか気恥ずかしいなぁ…」


ポリポリと、頬を掻く俺。
彼女は、やっと音を取り戻した雨の街に瞳をやると、またりんっとした声で俺にこう言った。


「矢代さん、帰らなくていいの?」

「…へ?」

「だって、週末は人ごみを嫌ってたみたいだから…」


そこまで彼女に見られていたのかと思うと、気恥ずかしさが更に増す。



「今夜はこの通りの雨だしね…」


ほんのりと赤くなってしまった顔を見られないように、俺はそう言った。