「あの、土方さんは居られますか?」



珍しいと思った。
女の人が屯所に来るなんて。

門の前だったこともあり、ギリギリセーフなのだが。


淡い着物を着て、花のような香りをまとう女性が1人。


初夏の風がサァァァァと吹き抜けると、木の葉は空へ舞った。

真っ青な天気に恵まれてるそんな日。



「私、多恵(たえ)といいます」



そう伝えてくれ、と言いたげだった。


すごく綺麗な女の人だ。

土方さんのお姉さんとか妹さんとか、そんな感じなのかな…。



「土方さんなら居ると思うので…、呼んできます」



そもそも私事をこの場所に持ち込んではいけない。

それは土方さんが決めたこと。


だからこそ、あの人に限ってそんなことあるはずがないけど…。



「…なに?本当に多恵と言ったか?」


「う、うん」



少し大袈裟なくらい頷いた私を、土方さんは横目で見つめた。



「嘘吐くんじゃねえよ。そんな女知らねえな」


「ほ、本当だよ…!すごく綺麗な人だった…!」



ため息を深く吐いて、筆を置いた土方さん。

ガシガシと頭を掻きながら部屋を出た。