私はお使いに来たの、土方さんから頼まれて。

それで気付いたらここに連れられていて。



「へ、変な冗談はやめてください。こんなに広いところ……それに私、お金だって持っていません…」


「お金なら土方さんから前払いでもらってあるよ。それと、これは君に直接渡してくれって」



話のついていけない私の前に、それは差し出される。


淡い黄色をした着物と柔らかな白い帯、浅葱色をした簪(かんざし)。

まるで、ここで、ここから。


ゼロから、女として生きろ───。


そんな土方さんの声が聞こえたような気がした。



「…実は君のことは土方さんから全部知っていたんだ」



確かに、さっき。

この人は私のことを若くて物知らずな“女の子”だと言った。



「もし最初から話していたら君は必ず土方さんの元へ戻ってしまうだろう?
これも土方さんから頼まれていたことなんだ」



騙すような真似をしてすまない───。

その人は深く頭を下げた。


そんなの、許せない。

許せないのに、土方さんらしいなって思ってしまうのは。


私があの人のことを知りすぎてしまったからだ。



「…っ、」



崩れ落ちる背中を、その人は優しく撫でてくれる。


約束したのに…。

土方さん、こんなのはあんまりだよ。



『───…幸せになれ。』



って、土方さん言ったよね。

私の幸せはあなたとじゃなきゃ見出だせない。

それなのに───…。



『そん時ゃてめえの帰る場所くらいは俺が保証してやる』



まだ、戦は終わっていないよ。