進んでも進んでも、その先はどんどん遠のく。

手を伸ばして掴もうとしても遠すぎて掴めやしない。


その地平線の、水平線のずっと先。



「…さぁな。俺にも分からねえ」


「土方さんにも分からないことがあるんだね」


「当たりめえだ。…世の中は分からねえことだらけだと、誰かさんが今も教えてくれてるよ」



首を傾げる梓。

土方はふっと笑って腕を伸ばし、その手を包み込む。


同じように地平線の先を掴むようにぎゅっと握り、男は唇の端を上げた。




「───行こうぜ、一緒に。」




お前とならどこへだって行ける。
きっと、辿り着ける。

だから何も心配すんな。


お前は俺の隣に居りゃあいい───…。



「うん…。行きたい」



その先に何が待っているのか。

たくさんのことを乗り越えてきた。


喜びも哀しみも、深い深い後悔も。


この広い海と比べれば、どれもちっぽけかもしれないけれど。

それでも目を閉じれば記憶はいつだって生きていた。



「…あそこが蝦夷だ」



よく見とけ、俺達の新たな聖地になる場所だ。


───梓。




「もう俺の手を離すんじゃねえぞ」



「───はい…!」




お父さん、沖田さん、朔太郎。


どうか、このずっとずっと続く浅葱色の空から見守っていて。

あなた達の分まで私がこの目でしっかりと、この時代を見るよ。


もう逸らさない。

だって私の隣には。



「う…、やっぱり駄目だ、吐きそう……」


「飲み込め」



土方 歳三(ひじかた としぞう)がいるから───。