夜明け前、波打ち際に留まる船。


波が向かいくる度に潮風は男の短く切り揃えられた髪を揺らした。


漆黒のトレンチコート、黒のパンツ。

白いシャツを隠すようにコートから覗く黒いベスト。

首に巻かれたスカーフ、膝まで隠すブーツ。


そして───刀が2つ。



「暫しの別れ…か」



出航の汽笛合図が鳴り響く同じタイミングで太陽は顔を出した。


先頭に立ち、水平線の彼方を見つめる袴姿の女が1人。

瞳に秘めた揺るぎない覚悟は数多の命を見てきた証だった。



「みんな…、行ってきます」



約4年過ごしたこの町を離れる。


目指すは極寒の北の大地。

この先待ち受けるものは困難か幸福か。


カンカンと階段を登る音に先程の男は現れる。



「わっ…!」


「早朝の海風なめんな」



潮風に揺れる髪を見つめると、コートを乱暴に被せられる。

そんな隣に男は立った。



「ねぇ土方さん。あの先には何があるの…?」



少女はじっと見つめてポツリと呟く。