そう言われるとは思っていなかった。

だってこれは土方さんの為でもあったから。


ねぇ土方さん。
もう、いいんだよ。

あなたは何も責任を負う必要がない。



「…土方さんと私はもう、関係が無いよ」



そう呟いたとき、筆の動きは止まった。

その背中が何を思っているのか見えないまま、彼の長く透き通った黒い髪がとても綺麗だったから。


もう、これで終わりにしようと思った。



「私は近藤さんに拾われて、近藤さんの小姓として、子供として置いてもらってただけだから…」



でも今は新撰組は終わって、近藤さんも捕縛。


土方さんがそこまで私を守ってくれる必要なんてない。

私が居るから出来ないことだってたくさんあるはずだ。



「土方さんは海の先、行かなきゃ。……私は溝蛙だから…海は泳げない」


「…なにが溝蛙だ、お前なんかおたまじゃくしで十分だろ」


「ふふっ…そうかもしれないね」



土方さんが蝦夷で「旧幕府軍の指揮官になってくれないか」と申し出が来ているのだって知ってる。

それでも未だに首を縦に振らないのは私が居るからだ。


寒く遠い北の地、船に乗って海を渡って。


その先にあるのはまた───…血の海。