「トシ、梓。───逃げるんだ」
近藤さんはいつものように笑って「大丈夫だから」と言う。
大丈夫なわけない、なにを言っているの。
似顔絵まで回っているくらいなんだから。
顔を見れば一瞬で判断されてしまうに決まっている。
この手を離したら終わりなような気がして、強く強く握った。
「…俺はあんたの名を上げる為に今までやってきたんだ。今更そんなこと許されるはずねえだろうが」
「俺はもう十分夢を叶えたよ」
「そういう問題じゃねえ!あんた分かってんのか!!」
捕らえられたら確実に罰せられる。
万が一死刑が運良く免れたとしても、必ず世間には出られなくなる。
「なぁトシ。もう俺の為俺の為と言わないでくれ」
その表情は諦めに似たものだった。
大名の名を貰って、武士より上の立場になった近藤さんからは「そんなもの望んでいなかった」と言っているように聞こえる。
彼は土方さん含め仲間達と、共に刀を持って走れればそれで良かったのだ。
「トシの人生はトシのものだ。俺のじゃない。そして俺の人生も、俺のものなんだ」
「ふっざけんな…ッ!!」
ダン───!!
土方さんは握った拳で壁を強く叩いた。



