近藤さんはそれでも立ち上がろうとしない。
「…いいや、今がその時だ」
土方さんは一瞬、瞳を揺らした。
彼の意図をまるで理解してしまったように。
「ふざけるのも大概にしてくれよ近藤さん。俺達はやっとここまで来たんだ」
「もう十分だよトシ」
「なに言ってんだ、あんたは俺の…俺達の大将だろ」
土方さんの声が震えているから、思わず私は近藤さんの袖をぎゅっと掴んだ。
そうすれば優しい顔をして頭を撫でてくれるのだ。
……そのはずなのに。
「───我が名は大久保 大和(おおくぼ やまと)。
新撰組局長、近藤 勇ではなく……大久保 大和だ。」
咄嗟に近藤さんの腕を掴んで、ぎゅっと掴んで。
必ず、離れないと伝える。
「近藤さん、…近藤さんは…近藤さんだよ」
そんな名前近藤さんじゃない。
そんな人違う。
違うからこそ彼は改めて言ったのだ。
偽名を使ってまでも私達を救おうとしている。
それはつまり───囮ということ。
この人は投降をするつもりなのだ。



