「近藤さん、私がおぶるよ。」
さぁ乗って───目の前にしゃがんだとしても彼は動こうとはしない。
いよいよ危機感が出てきた。
緊張が走る中、私はその腕を引っ張る。
「引っ張ってでも連れてく…!近藤さんお願い、立って…!」
グイグイ引っ張ったところでようやく、ゆっくりと目を開いた近藤さん。
かと思えば、スッと優しくその手を外される。
「…ありがとうな2人共。俺なんかの為にここまでついて来てくれて」
「なに言ってんだ。まだまだこれからだろ」
「そうだよ近藤さん。あのね、蝦夷(えぞ)っていう場所に旧幕府軍の基地があるんだって」
今度は海を渡って、それで航海に出るんだよ。
海と空のずっと先───…
「地平線の先に行けちゃうんだよ」
そんな私へと慈悲に包まれた眼差しが送られ、彼は「蝦夷は遠いなぁ」と優しく呟いた。
そして思い出を振り返るようにふっと目を閉じる。
「…楽しかったなぁ。まさか俺みたいな農家の息子が本当に武士になれてしまったんだ。…なぁ、トシ」
「思い出話はいいが、ちと早すぎたな。それはもう少し後だ」



