それでもどうしてか嫌な予感がする。

前だって移動しただけであんなにも新政府軍は追ってきたんだから。


あの軍隊に容赦などない。


例え朔太郎がまだ15歳だとしても、手加減なんかない。

もしあのときみたいに銃を構えた軍隊が道を塞いだとしたならば。



「行っちゃ駄目だよ朔太郎。…だったら私も行くよ」


「なーに言ってんねん。お前は副長を守る役目があるやろ!」


「違う、嫌な予感がするの…」



朔太郎は私の頬を掴んで伸ばす。



『いい加減笑ったらどうなんや!お前の表情筋は皆無か!!』



あの頃の少年とは全然違うのに。

それでもやっぱりいつだって彼は少し憎たらしいほど生意気な私の弟。



「すぐに追い付くわ。それまで大人しく待ってろって!」


「ひゃ、ひゃふはほ…」


「ふはっ!阿保面や」



そう言って、私の背中をトンッと押した朔太郎。

思わず1度振り返った。



「朔太郎───!」



彼は手を振る。

その背中は私が知っているものよりずっとずっと大きかった。


いつの間にそんなにも大きくなっていたの。


もう私が一緒に並んで走らなくても彼は大丈夫だと思った。

そんな私の、自己満足な兄貴面。




「ったく、ほんまに梓は俺がおらんと腰抜けやわ」




そんな無邪気な笑顔を見たのは、



これが最後だった───……。