もし俺が思う者に“武士”という名前を付けられるとするならば。

こいつらは既に立派な武士なんだろう。


俺がお前らくらいの時なんて、こんな戦場を走るなんて夢のまた夢。

目の前に居る女に目移りしては遊び呆けていた。

そんな馬鹿と比べたら、お前らは武士だ。



「知らへんのか梓。お前の後ろにはすっごい強い盾が何人も居るんやで?」


「盾…?」


「あぁ。今だってお前に少しでも何か仕出かせば鉄拳を食らわせちまう鬼がおるわ」



朔太郎は俺を見つめてニヤッと笑った。


俺のことを言ってんのかこいつは。

ギロッと睨んだとしても怯まない生意気な男は「鬼ヶ島の鬼は実は優しかったんや」と、続ける。


なにも理解していない梓は首を傾けた。



「土方さんが鬼なら梓は桃太郎やろ?ほんなら俺はキジやな」


「馬鹿言ってんじゃねえよ。てめえはどう考えても猿だろうが」


「なんでやねん!そんな煩いの嫌や!」


「つうかこんなショボい桃太郎を何で鬼の俺が助けてんだ」


「ええやん可愛いやんか!」



今までの梓ならば笑うところだ。

大人しめに口元を押さえて笑う。


しかし梓は笑わない。

それどころか口元をきゅっと結んで、今にも泣き出しそうだった。



「───ほら見てみ梓。今日は満月やで」



朔太郎は空を指差す。

いつもは梓が兄貴面をしているのだが、今日は逆らしい。



「綺麗やなぁ。月はずっと変わらず綺麗や。…なぁ土方さん」


「───…あぁ」



いつかこいつらが普通の男女として生きれる世は来るのだろうか。

サラッと梓の柔らかい髪が頬に触れ、俺は微かに瞳を伏せる。


その夜の月は残酷な程に綺麗だった。