「…さすがのあんたでも女を武士には出来ねえだろう」


「はは、これは驚いた…さすがトシだ」



そもそもこの人は私を武士にしようとしていたことにびっくりだ。

武士って、刀を差して人を殺してしまうような。



「例え局長だろうが局中法度破るってんなら、副長として黙ってるわけにゃいかねえな」


「武士として、俺は梓を拾ったんだ。例え勘違いだったとしてもな」


「武士道に背いてねえってのか?」



おかしい、何かがおかしい。
おかしいくらいに全てがリアルなのだ。

匂いも感触も、音も。


まるでここにもう1つの世界があって、そこにたまたま来てしまって、こうして関わってしまっている。

そう説明した方がしっくりくる。


新撰組屯所───そんな表札が暗闇の中でも痛い程目に入ってきた。



「…とりあえず今日はもう遅い。隊士に見つかったらもっと面倒だ」



近藤の眼差しを背かせた男は、ため息を1つ吐いた。

そうして厄介者を見るかのように一瞬私へと視線を移し、そしてまた逸らす。



「近藤さん、確か奥に空き部屋があったろ。そこにそのガキ置いとけ」



置いとけって、物みたいに言うなぁこの人。

名前も知らないけどあまり関わりたくない人だ。


近藤さんって人とまるで正反対。