広く大きな背中が暖かかったこと。

その手の温もりが何よりも広く大きかったこと。

首に腕を回せば回す分だけ、同じように力が加わること。


落とさないように優しく。


宵闇に溶けてしまいそうな孤独を、その人はしっかりと離さぬよう掴んでくれていたこと。



「今日はいつもより涼しい夜で助かったなぁ。───お、鈴虫が鳴いているぞ」



月の光に照らされた2つの影が、小さな子をおぶる親に見えたこと。


鼻の奥からツンと込み上げてきそうになって、思わず毛布の中に顔を埋めた。



「───…あったかい…」



どこへと向かっているかわからないのに、
怖くなかった。


この人の背中にいればきっと大丈夫。


まるでそれは、これから起こる数々の出来事を表しているかのようで。

少女はそのときの記憶を忘れないように、しっかりと思いに留める。



「俺は近藤 勇(こんどう いさみ)だ」



こんどう、いさみ───…?


「いさむ」じゃなくて、「いさみ」。

この人にぴったりな名前だと思った。



「君は?」


「…と、時折……梓…」


「あずさ、か。いい名だ」