「話が読めねえな」
低い声が響いた。
土方さん、沖田さん、近藤さん。
男と向かい合うように座る土方さんの隣に私、その後ろに沖田さんと近藤さん。
男は私を見つめて、あの日に似た皮肉な笑みを1つ。
「御宅の少年に上手いことやられましてなぁ。これがそのときに出来た傷ですわ」
唇の端、ニヤリと狐を描く境目に血の塊があった。
たぶんあのとき、土を投げた瞬間に出来たもの。
驚きもしない眼差しで土方さんはただ見つめ続けている。
「どうも、ウチの息子と仲が宜しいようで。聞けば新撰組だとか何とか。こりゃたまげましたわ」
「で、用件は?」
ふっと笑って、男は1つの小判を目の前に差し出してきた。
「見たことあるかい?ないやろなぁ、名前すら知らへんちゃうか?」
嫌味を含む音色。
沖田さんはクイッと私の腕を引いて、距離を取らせる。
「この慰謝料を請求しない分、息子にはもう会うなと言ってはるんですわ」
客間は屯所内でも少し隠れた場所にあった。
だからこそ人も通らない。
静かな息だけが反射してダイレクトに耳に届いてくれる。



