「…なにが…、あったんですか」
動揺を隠せない瞳が合わさる。
すぐに駆け寄った沖田さんは、揺れる瞳で傍らに膝を落とした。
また、そんな顔をさせちゃった。
「今日は朔達と遊んでたんじゃないんですか…?」
「帰って来たらこのザマだ」
でも不思議だ。全然、痛くない。
体は動かないし、右腕も右眼だって感覚はないのに。
それでも、痛くなかった。
「辻斬りですか」
「刀傷は1つもねえな」
「…誰にやられたんですか、」
「無駄だ。何ひとつ口を割らねえ」
だって痛いのは私じゃなくてこの人達だ。
私なんかじゃなくて、知らないところであんなにも酷い言い方をされているこの人達だ。
町人からも軽蔑されて馬鹿にされて、それでも信じた道を走り続ける───この人達だ。
「総司、てめえは何か知ってるんじゃねえのか」
「…あの男は必ずここに来ます。そのときは僕が斬りますよ。いいですよね土方さん」
「ここまでコケにされちゃあ黙ってるわけにもいかねえわな。但し総司、最終手段としてだ」
「駄目だよ土方さん…、沖田さん…。ぼくは……大丈夫、だから…」
言えない……。
だってあんな男でも、一応は朔太郎のお父さんだ。
家族というものを何も知らない私でもわかる。
親を傷付けられて悲しまない子はいないって。
「…梓、なんで……、そんな姿にされたのに…」
だから私だって新撰組を貶されてあんなにも自我を失った。
体が勝手に動いて、殴られても蹴られても彼等の痛みに比べたら全然平気だった。
「ガキはガキらしく泣いてりゃいいってのによ。てめえはそれすらもしてくれやしねえ」
「…ありがとう、土方さん」
「…笑ってんじゃねえクソガキ」
───その数日後のことだった。



