「沖田さん…っ、おきたさん、」
おいで梓───と、自ら手を伸ばしてくれる人。
彼もまた私にとって大切な存在。
兄のような人。
自分にいつも笑いかけてくれる人。
必死に追いかけて、手を伸ばす。
しかし彼は微笑んだまま止まってはくれない。
「……土方さん、」
そんな中、彼の名前を呼ぶことを少しだけ躊躇ってしまった。
振り向いてはくれない。
いつも私が見つめる土方さんは「背中」。
大きな背中を向けて、後ろなんか見向きもせずに前へと進む、そんな人。
「土方さん、土方さん…っ」
目が片方開かないの。
右腕も痛みを既に通り越してしまったんだよ。
身体中がボロボロになっちゃって、帰りもこんなに遅くなってしまった。
それでも追いかける。
幻影でしかないそれを、ただ追いかける。
「わっ…っ!」
ガッ!ドテッ───!
小石に躓き、土の上に倒れる体。
ぐっと唇を噛んで起き上がった。
「……いたい、」
おかしいなぁ。
朔太郎のお父さんに殴られたときは耐えられたのに。
彼等を追いかける途中で転び、掴もうとしても掴めない痛みの方が凄まじく大きかった───。



