遊んでいても、心から楽しいなんて思える時間はなかった。


だから、その子にももちろん警戒心を持っていたんだが、びっくりするほど俺に優しくしてくれたんだ。


俺が転んでひざをすりむいて泣いたら「大丈夫?」と言って、水で流し絆創膏を貼ってくれた。


いつもだったら、女ボスたちに笑われて終わりなこの俺に。


『さくちゃん』


そう言って笑う笑顔は年々俺の記憶から薄れていったが、それでもその時の匂い、感覚はずっと褪せず。


女ってものに夢が持てない中でも、それだけは忘れてなかった。


『10年後、またここで会おうよ』


その子との別れ際、確かに俺は言った。


当時俺たちは6歳。10年経てば、16歳になる。


姉貴たちは常日頃、『16歳になったら王子様が迎えに来てくれないかな~』なんてよく言っていた。