「すうちゃんもう大丈夫なの?」

「もうこの通り。さすがに鮭はしばらく食べられないわ」


オリエンテーションから数日が経ったお昼休み。

アニサキスに打ち勝ったすうちゃんがお土産の入浴剤を嬉しそうに振っている。



「それ食べないでね」

「食べるわけないでしょ、バカ」


こっちゃんは今はいなくて、すうちゃんと二人。


治ってもなお、すべての食べ物にアニサキスが潜んで見えるというすうちゃんの今日のお昼ご飯は、コッペパンに水。

ほろりと涙が出そうになった。



「え、花平来てたの?うあーせっかくの眼福逃しちゃったー」


オリエンテーションの話を興味しんしんに聞いていたすうちゃんは、そう言って頭を抱え込んだ。



「眼福って大げさな」


眼福の意味は、

『美しくて、貴重なものが見られた幸運』


……たしかにその通りではあるかもだけど。